歯髄保存の条件について
歯髄保存治療を行う上で重要なのが、保存できる歯髄なのかどうかという点です。臨床的に症状がなくなり経過良好に思えても、実は歯髄が失活(神経が死んでしまう)していることがあるからです。歯髄が失活してしまうと今後、根管に細菌等の感染が生じると根尖病変(根の先に膿が生じる)ができたり、それによる痛みや腫れなどの症状が出現する可能性があります。
教科書的に歯髄を保存する上での適応症は、
①露髄(神経が露出する)の危険性があるが、その直径が小さいもの
②歯髄に感染が生じていないこと
③可逆性歯髄炎であること
④確実に経過観察が行える症例
と記載されております。
①について、露髄した歯髄の上から材料を貼付して歯髄保存を行いますが、その大きさが小さければ小さいほど条件は良いです。教科書的には2mmが上限と記載されていますが、実際は2mm以上の露髄を認めた時でも歯髄の保存は可能になるケースは多いです。しかし、露髄の大きさが大きければ大きいほど歯髄内への感染が進んでいる場合がある為、慎重に保存可能かどうか判断していかなければなりません。
②について、歯髄に感染が起きている場合は最初に述べたように根尖病変が発生する可能性が高まります。なので、露髄した歯髄の状態をよく観察する必要があります。
③について、可逆性歯髄炎とは“炎症状態にある歯髄が元の健全な状態に戻ることができる範囲内である”ということです。逆に歯髄の保存が不可能となる状態のことを“不可逆性歯髄炎”と言います。不可逆性歯髄炎の場合は歯髄除去療法が適応となります。
④について、経過観察が確実に行えない場合、歯髄が失活してしまったり、症状が出てしまった際に迅速に対応することが難しくなります。無症状のまま病状が進行してしまう可能性も高いことから、長いと半年から1年ほどは定期的に状態の確認をすることが大切となります。
術前に歯髄保存ができる可能性が高い条件としては、
①強い自発痛(何もしないでもズキズキ痛む状態)がない
②長い誘発痛ではない(一度シミてからそれが1分以上持続するような痛み)
となります。
逆に上記のような症状が術前にある場合は歯髄保存が困難となる不可逆性歯髄の状態と判断されます。
術中の歯髄の状態によっても術後の予知性がある程度予測できます。
①歯髄からの出欠が軽度であり、圧迫止血により止血できる
②歯髄組織の状態に異常がない
③虫歯を全て取り除いても歯髄に大きな支障がない
などが挙げられます。
①について、歯髄組織は血管も含んでいることから露出することによって多少出血を生じます。炎症が強い場合、その出血の止血が困難となり歯髄の保存が不可能となります。逆に止血がしっかりと行えれば歯髄保存の可能性はかなり高まります。
②について、炎症が強い場合の歯髄組織からは止血ができないほどの出血が続きます。逆に歯髄の生活力が低い場合(歯髄が死にかけている)は歯髄の色が白っぽく見えたり、更に歯髄があるはずのスペースに歯髄が存在せずスカスカな状態が観察されます。このような状態の場合も歯髄保存は不可能となります。
③について、虫歯を全て取り除いた際に、歯髄をカバーできる健康な歯質がないと歯髄の保存は不可能となります。
術中にも以上のような点を注意しながら歯髄保存を試みていきます。
歯髄の状態を正確に把握するためには細胞レベルでの観察が必要となりますが、それは実際の診療中には不可能なので、様々なポイントを押さえながら進めていきます。
豊島区池袋の倉本歯科医院では歯内療法専門医による根管治療、歯髄保存治療を行っております。
歯髄保存治療を行う上でも大切になってくるのが、ラバーダム防湿をしっかり行い、マイクロスコープを使用して虫歯をしっかり取り除き、歯髄の状態をよく観察することです。
お悩みの歯がありましたら、ご相談ください。
2021年11月22日 10:16